篠田桃紅 昔日の彼方に 菊池寛実記念 智美術館に行ってきました

開催は2017.3/29(水)-5/28(日)までです。日本の現代美術、主に陶芸作品を鑑賞できる、虎ノ門にある智美術館はぼくのお気に入りの展覧会場のひとつなのですが、書家である篠田桃紅さん(シノダトウコウ・1913-)の作品展がある、というので、行ってきました。というか、行かないわけにはいきません。

2013年に篠田さんの百寿の記念に、智美では回顧展があったばかりなんですけど、現在100歳を過ぎても旺盛な創作活動をされている彼女の新たな作品も見ることができるというので、向かいました。作品数は46点。いちばん古い作品は1962年の最も当時の抽象画の影響を受けていたもので、多くは90年代、00年代の作品が中心でした。どれも粒ぞろいの傑作でしたけれど、篠田桃紅というアーティストがどんな人であるのか、今抽象画といいましたけれど、ご存知ない方には、最初にいくらか説明しなければならないか、と思います。

f:id:mannequinboy:20170505112336j:plain www.musee-tomo.or.jp

ぼくはTVを観ないので、篠田桃紅という書家に関する特集を、どこかの放送局がやったのかもしれません。今回はお客さんもけっこう入ってたんですね。

篠田桃紅は単身で1956年にNYに渡るまでは、いわゆる「書家」だった、と思います。彼女の経歴における、1971年にNYで開催されたペティー・パーソンズ・ギャラリーにおいて、名を連ねた画家たちをざっと見ると、あら?? と皆思うはずで、そこにいるのは、ジャン・デュビュッフェ、ウィレム・デ・クーニング、ジョアン・ミロパブロ・ピカソ、ピエール・スーラージュ、アントーニ・タピエス、ハンス・アルトゥングら。彼らが戦中戦後を代表する抽象画家たちの名匠であることはすぐにわかると思うんですが、そこに篠田桃紅の名前も交じっています。今回の展覧会でも、これアルトゥングでしょ? とか、ポロックの影響としか思えない、という作品を観かけることができるわけで、彼女の立ち位置が、現代アートにあることは紛うことない事実です。

逆に、日本の書道に影響を受けた海外の抽象画家もたくさんいます。代表はフランツ・クラインでしょう。篠田の作品を観て、フランツ・クラインじゃない? と思う人って、ぼくは多いと思うんですよね。けれども篠田桃紅はあくまで墨による表現者です。

今現代アーティストといいましたけれど、それらの抽象画家とも、或いは、想像されるような前衛書道家とも、一線を画しているのが篠田桃紅という書家であって、その抽象画的でモダンである作風は、なぜか極めて古風な佇まいを感じさせるのが、とにかく篠田桃紅の個性なんです。その凛とした作品は、慎ましい、といってもいいです。「身体性」や「記憶」を喚起させるのは、やはり女性らしいですし、それが限りなく日常的な息遣いに満ちています。濃墨の力強い黒、背景に金銀泥などが用いられますが、ポロック風のドリッピング技法は、篠田においては胡粉によって表現されています。少なくともぼくはこのような意図の元で胡粉の技法を使ったのは、篠田においてしか見たことがないです。篠田の書が鑑賞者の胸を撫でるものは、心の響きであり、ポエジーです。

f:id:mannequinboy:20170505011524j:plain

ぼくが感じるに、篠田桃紅の書に宿る独特な息遣いの理由はその「水」の表現によるところもきっと大きくて、これもとても女性的なんですね。作品が潤っているんです。和紙に墨で描かれているんですけれど、日本画風な垂らし込みや濃淡の雰囲気はなく、たとえばやはり戦後の抽象画家を代表するバーネット・ニューマンの初期作品などに近い「肌触り」を感じます。けれどもニューマンやロスコ的な精神性とはやはり違う。余白を効果的に用いるのは日本画家の特徴ですけれど、篠田にはそれもない。描かれたものが「真実」であって、描かれぬものは「水」で表現されている。彼女が抽象画と書を融合させた、「水墨」と呼ばれる画風を生み出したのは、水という官能性に還元されるものが大きいと思います。

f:id:mannequinboy:20170505011553j:plain

チラシにある「Monument/いしぶみ」(2013)の無造作に左から右へ引っ張られたいくつもの躍動し掠れる幅広い面は、ある種の墨絵の表現を開放した画期的な作品です。連作も多いんですけど、圧巻なのはリトグラフで、この製作は1960年からはじまっており、フィラデルフィアの刷師アーサー・フローリー氏による勧めで挑んだらしいですけど、これらは「hand-colored」、つまり手彩で描かれています。

ぼくの心を最もとらえたのは、今回「Quietude/静穏」(1990)と題された比較的大きな作品だったんですけど、これもリトグラフか……とあとで目録を見て驚きました。淡い墨と濃い墨との重なり合いの中に、力強い神経症的な細い線が引っかかれるように描かれ、そこにアクセントをつけるのが彼女の作品の特徴のひとつなんですが、赤や白、といった目立った色合いに交じって珍しく緑色が薄く見えている。この小さな機微が抜群の効果を発揮しています。カタログに掲載のものは、上手に再現されてないのが、残念です。

書と抽象画の共通する特徴は、遠景からも近景からも鑑賞ができる、ということで、距離感によって味わいがまったく違います。チラシ絵の「monument/いしぶみ」はそういった典型的な作品で、近距離で見る場合、とりわけ大きな作品の場合は、上から少しずつ視線を落としていくと、抽象的な作品が、具体的な心象を喚起させて心に迫ってきます。

いわゆる書だけの作品もあって、ぼくの好きな陶芸家の藤平伸の「太郎の雪」と同じく、三好達治の詩が書かれています。書だけでも、十分に優れているので、日本画がお好きな方も感動できることを保証します。

それで、今回のカタログについてなんですけど……展覧会すべての作品が網羅されていないことに要注意です! 先ほどあげた彼女の最高傑作のひとつである60年代の「Discovery/ひらく」が掲載されていません。智美はポストカードもあまり販売しないので、展覧会の余韻を楽しむ、ということには苦労します。そういう場合は仕方ないので、二回行きましょう。半券を持っていけば、リピーター割引で、当日¥1000が¥700になります笑。そうしましょう。

いつも智美術館は空いているんですけど、けっこうお客さんいましたよ。数十人くらいでしたけど。実は智美術館の受付前には巨大な作品が常時展示してあります。これは篠田桃紅の作品なんです。タイトルは「ある女主人の肖像」です。傑作なので、これもお見逃しないように。とにかく智美術館に行ってください。

一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い

一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い

篠田さんの著作ではこれがいちばん話題になったものでしょうか。ぼく的には、やっぱり幻冬舎か、と思った次第。いい本です。

www.excite.co.jp ジョン・レノンが篠田さんの作品に感動した、というのも凄いけど。ぼくにとっては彼らは「共鳴」した、という事実が、やっぱりすごく嬉しいわけです。

www.nagaragawagarou.com 長谷川画廊で篠田さんの作品を閲覧できます。

スポンサーリンク




シェアする

フォローする

スポンサーリンク




%d人のブロガーが「いいね」をつけました。