コピーライターってなに? 『ここらで広告コピーの本当の話をします』 小霜和也

小霜和也

小霜和也さんは元博報堂に勤務されて、後にフリーとなって活躍された有名なコピーライターです。主に関わったクライアントは、キリン、サントリー、NTT、ハイネケン、メガネスーパー、日産自動車、資生堂、キッコーマン……と誰もが知る一流大手企業がずらりと並びます。そのコピーを聞けば、ああ、聞いたことある、と多くの人はうなずくと思います。

「わが家は、南アルプスです。」

これは「サントリー天然水サーバー」のCMのコピーです。

この著作は小霜さんが、そもそもコピーライターとはなんぞや? その原理原則をわかりやすく解説した本です。2014年に出ていますね。ライティング業務専門の方でなくとも、一読の価値があります。ほぼマーケティングについての基本を語っているからです。

内容は、5章に分かれています。

1 そもそも広告コピーって何
2 コピーを「考える」
3 そもそも広告って何
4 コピーを書く「姿勢」
5 コピーライター人生とは

セミナー形式で、語りかけるように綴られた著書ですから、とても読み易いです。ただ一点、専門的分野なので、多くの方はきっと一読しただけでは、内容が頭に入ってこないでしょう。とりわけ具体的なコピーについての解説が書かれてある一章、二章は難解で、これは専門書、実践的な書物といってもよいかもしれませんね。3回は通読したいところです。

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『ここらで広告コピーの本当の話をします』を読む

1章 そもそも広告コピーって何

最初に広告について重要なことが書かれてあります。BtoC(個人顧客相手)企業の課題は常に生活者との関係にある、という言葉です。小霜さんは、コピーライターをこう定義づけています。

「モノとヒトとの関係を創る・改善する」
「企業や商品の価値を上げる」

誤解されやすいのは、広告コピーとは「キャッチフレーズ」ではない、ということです。(このことについては、後に詳しく述べます。)具体的な方法意識として次の2つのことも述べています。これは広告コピーの基礎です。

1 USP(競合優位性) 自分が広告しようとしている商品はいったいなんなのか。ほかの競合商品とどう違うのか。そのことをまず知る。(ベネフィットについてはここでは触れられてはいません。) 
2 ターゲット。それをどんな人に売ろうとしているのか、それを探る。

繰り返し述べられているのは、カテゴリーとしてのコピーではダメだということ。自社開発の商品コピーでなければならない、ということです。STPにおけるP、ポジショニングですね。

※STPとは、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングのこと。セグメンテーションとは市場を細分化すること。ターゲティングとはターゲット層を抽出すること。ポジショニング都は他社との競合優位性を設定すること。

さらに、もうひとつ重要なことが触れられています。その価値をいかに最大化するか、ということです。ここで「タグライン」という用語が出てきます。小霜さん曰く、広告コピーとは価値が最大化されるように商品を「定義づけ」するもの、ということです。

キャッチフレーズとタグラインとの違いも述べられていまして、キャッチフレーズは確かに顧客の心をつかみ、主観の鮮度もありますが、あっという間に消費されてしまうものとして定義されています。逆に、タグラインは不変です。キャッチフレーズとは実はタグラインに引き寄せるためのさらなるコピーのことです。

わかりますかね。

具体例として。

「皿」としての商品 → サラダを食べる皿

こう「定義づけ」をすることで、「商品価値」がターゲット層の中で大きくなるわけです。想像してください。タグラインとは、べたでかまわない。なにより商品のわかりやすさを優先するべきだ、とも述べていますね。

最後にこの章では、こう締めくくっています。

広告コピーとは、その商品が必要となる=ターゲットが価値を感じる状況を言葉によって作りだすことである。

コピーがその商品とヒトとのあいだに関係性を構築しているか。言葉としての力があるか。それが消費者の心に刺さっているか、です。

2章 コピーを考える

ここで語られるのは、ずばりマーケティングです。「マーケティングとはなにかといえば、押し売りしなくても、商品が勝手に売れていく状況を作りだすこと」です。これは基本中の基本なので、どんな商売をするにしても、頭に叩きこんでおきましょう。

もうものを作ったら売れるという時代ではなくなりました。コピーライターのような職業が持て囃されるようになったのは、1980年代頃からですが、そのような現実的な経済的状況が背景にあるのです。

コピーにとってもマーケティングは必要なのか? という問いが出てくる。

さらに、では、どうやってそのマーケティングを作りだしていくのか。

マーケティング、或いはライティングもそうですが、経営学よりも、心理学に近いものです。顧客の心理をどう動かすか、ということが、マーケティングの鍵です。

マーケティングの基本作業について。

では、マーケティングの基本作業について、述べていきます。

競合他社との商品と比べてこの商品の独自性はなにか?(USP)、この商品を欲しがっている層は誰か(ターゲティング)、そしてそれらの顧客の不安や悩みを解消してあげられるものになっているか、この三つです。

これもまたすべての商売に通じる基本定義なので、頭に叩きこみましょう。

具体的方法を述べていきますと、USP、ターゲット、キャッチコピー、クロージングの順番ですが、さらに具体的に説明します。競合商品について調べる。そうすると当社商品の強みもわかってくる。順番に述べていきましょう。

1 競合他社に対してわが社の強みはなにかと問うこと。

まずUSPを徹底的に調べ考えること。

敵を誰と考えるかも重要。世界の会社も視野に入れるのか、日本のみなのか、それによってターゲット層も変わってくるからです。

例として、「マルちゃん正麵」という商品において、「麵」に強みを置いた、ということが書かれてありますね。

2 ターゲットインサイトを考える。

インサイトとは、潜在意識、のことです。顧客層の深層に眠っている購買欲を引っ張り出すことです。これは、こうだろう、と決めつけるのはダメで、徹底的に調査すべきだということ。

それは作るものではなく、見つけるものです。老人はもう働きたいなんて思っていない、と決めかかってしまった時点で、その商品は価値性を失います。顧客に眠っているインサイトを見つけることが重要です。

小霜さんはここまで時間の9割を使ってください、といっています。ターゲットとキャッチフレーズの違いも、再びとりあげられていますので、説明します。

重要なのはまず戦略としてのタグラインです。キャッチフレーズはあと。キャッチフレーズとは、自分には関係ある話かも、と思わせるものと考えてください。

3 キャッチフレーズ

キャッチフレーズの基本は、「商品があることの喜びMAX」と「商品がないことの悲しみMAX」を表現することです。

結果的に、コピーライティングとは、相手の立場になって考えて書くこと、であると締めくくられていますね。これもビジネスの基本定義でしょう。

3章 そもそも広告って何

この3章では、コピーライティングの基礎、実践のあとで、もっと根源的なコピーの本質について述べられています。ブランドの話がされます。たとえばブランドロゴについてです。

簡単な言葉で小霜さんはこう定義づけています。

ブランドとは「気持ちいい記憶」だと。

それをある種のドーパミンが出る依存症ともいっています。コカ・コーラを飲んだときの感覚が忘れられなく、いつまで経っても炭酸飲料はコカ・コーラを無意識に選んでしまう。そのためにたとえば会社のロゴなどが強烈にインパクトを与えるわけですね。

そこで広告はなにができるか?

商品の疑似体験をさせるもの、そしてその商品の情報を伝えるもの、ということになります。

ここには人間が決して正しい記憶だけを脳裏に刻んでいるわけではないという「錯覚」の心理学が応用されています。実は人間の脳は正しい判断などしていません。たとえば、この人が母親だと思ったら、母親だと思っているのが人間です。その人を思うと、懐かしさや愛情がこみ上げ、ドーパミンが溢れるわけです。それを広告でやるということですね。

「客観」ではなく「主観」で描いてあげる、という実践術について述べられています。CMで芸能人が飲んだり食べたりするシーンが多いのは、疑似体験を共有させるためです。さらに具体的実践として、「同じ属性」であること、「シズルカット」、これはつまり、美味い! とか、そういうシーンを挿入する、ということです。そしてロゴはこの「シズルカット」と同時に出すのが効果的だと書かれてあります。

興味深いのは、ここでは、さらに「裏テーマ」についても述べていることですね。

人間の深い感情をもっと揺さぶる、非人間化していく今の時代に、気持ちのいい記憶を常に刷り込んでいくことが、これからは重要です。

さらにもうひとつ重要なことが述べられています。他社のブランドから、自社のブランドの乗り換えてもらうにはどうしたらいいか? ですね。小霜さんも、キリンとアサヒを行ったり来たりしているわけです笑

基本的にコピーライターの仕事とはこれに尽きます。なんだか悪戯な商売のように見えますが、企業は売り上げが伸びればいいわけですから、結局イタチの追いかけっことなり、儲かるのは、その間に立っている小霜さんのようなコピーライターなわけです。

「乗り換えさせる」には、新しい顧客との関係性を作るしかない。ブランドは老舗が強いのが定石です。それを新企業に代えさせるのは、至難の業です。それをするには、やはりUSP(競合優位性)をしっかりとらえ、新しいターゲティングを探って、価値を拡大かさせる、これしかないんです。コピーライティングの役割りはここにこそありです。

さらに、新しいコピーライティングの役割についても述べられています。

それは「ストーリー」です。

マズローの五段階欲求の最終段階、自己実現の欲求については、読者はわかるでしょうか? 生理的欲求、安全欲求、所属欲求、承認欲求、そして自己実現欲求です。人は四段階まではわりとクリアーしているんですけれども、五段階を実現している人は少ない。それを広告によって刺激し、その商品を買うことで、夢を見させる、というものです。ここで大事なのは、そのストーリーを聞かされたときに、ぱっ、とそれが自分の将来像としてビジュアル化される、ということです。それが重要なことと具体的なことをいっています。

気持ちがいい、という生理的欲求だけを刺激するものではなく、自己実現というストーリーを充たしてあげる。社会が成熟するほど、人間はこの欲求が高まっていきます。あっさりと消費されていく商品は、このストーリーが弱いわけです。顧客はその商品に己のストーリーを託し、疑似体験をする夢を買ってもいるわけです。それがブランドですね。

いわゆる「ブランド」と「憧れブランド」とは違う、とも述べられていて、興味深いです。ブランドとは習慣的なものです。そこにストーリーという自己実現欲求を注ぎこむと、「憧れブランド」になるわけです。これが決定的な差ですね。どうして多くの企業が七年で潰れてしまうか。憧れブランドを構築することができないからです。

人は合理的経済活動をしていない、といったノーベル経済学者のチャルディーニの著作についても触れられていますが、チャルディーニについてはべつの機会に譲りたいと思いますので、割愛します。

4章 コピーを書く「姿勢」

ここでは広告コピーにおける心構えが書いてあります。

理念的なものなので、ざっと述べるに留めますね。クリエイティヴの仕事はワンチャンス。それをものにするにはジタバタしろ。人の話を聞け。クライアントの要望以上のものを提出せよ。担当商品のファンになること。デザイナーとのコラボレーションなどなど。

ここで面白いと思えるのは、クライアントの要望以上のものを提出する、と言う箇所です。小霜さんは、クライアントが要望するようなコピーと、それ以上のコピーの両方を提出することを提案しています。

クライアントは前者に対して、なるほど、でも、ありきたりかな、とまあ、そういう反応であっても、後者にあたっては、こういうものもあったか! となるそうです。もちろん後者が使えない場合でも、こいつ面白い奴だ、ということになって、次に仕事が繋がる、といっている。自分はそうして仕事を作ってきた。リピートがいかにセールスで重要か、それもまた別の機会に譲りたいと思いますが、とにかく仕事が継続しなければ成立しない職業ですから、なるほどと、思えるクリエイターの戦略です。

5章 コピーライター人生とは

最後はまとめです。ここでは広告の現代の位置、これからのことが書かれています。

小霜さんは広告とは現代の共同物語なのだといっています。それは人を導き、癒し、励ます力を持っている。都市に欠かせないものとしてあり、人の目に映らないということがない。

CI(コーポレント・アイデンティティ-事業のコンセプトのこと)についても述べられていまして、それは企業のスローガンではなく、これからの目標であるといいます。

言葉とは人の行動を変える力がある。企業の未来を決定するほどのものがある、と。

企業はソリューション(解決)を望んでいる、ということですね。結局、言葉とは人を喜ばせるものだ、ということで、この本は終わっています。

ぼくの感想

ということで、ざっと著書に関することを述べてきましたが、いかがだったでしょうか? 優しい言葉で書かれてはあるんですが、読者が難しいと思うということは、そもそもコピーライティングというものが難しいものだ、ということです。

最初に述べたように、これはコピーライターの本ですが、いわゆるセールス、マーケティングという顧客の心理をいかにつかむか、について強調された書物になっているので、専門外の方も大いに参考になる本だと思います。

とにかく、華やかに見えるコピーライターの世界も、原理原則に則ってセールスをしているのだな、ということがよくわかる本です。億単位を稼ぐ小霜さんもそうなのです。それは決して才能や感性などで作られるものではない、ということです。ライティングをするにあたっては、これらのことは頭にしっかり入れてもらいたいところです。

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